一香堂(ひとかどう)の身辺雑記

人生面白がろう😆一香堂はり灸師@神楽坂の雑記帳

『コンビニ人間』読みました

 155回芥川賞受賞作、村田沙耶香作『コンビニ人間』を読みました。

コンビニ人間

コンビニ人間

 

「面白かった」とか「共感した」とか「現代の世相を切り取っている」とか、単純に感想を述べづらい本です。

じゃ「面白くなかったのか?」と問われれば、面白かった。「共感しなかったのか?」と問われれば、「あるある」共感、結構ありました。そして「現代の世相」と言われればそうでしょう、なんたって現代の象徴的存在「コンビニ」が舞台ですから。

主人公の古倉恵子を始め、どう見てもヤバい白羽さんはもちろん、その他「普通」の人たちも、みんな変だ。

恵子の物語を読んでいると、結構痛い。聞きたくない告白を聞かされているようで、見たくない自分の部分を見せられているようで、うずうずした共感が湧いてくる。恵子の戸惑いとか違和感とか。

恵子は、子供の頃すでに、自分がこの世界にとって「異物」であることに氣がついた。彼女は、それを嘆くでもなく憐れむでもなく悲しむでもなく、淡々と状況分析し、自分が異物であることを隠す技を身につけた。

自分から何かを発することは止め、誰かの真似をするか誰かの指示に従うことを選んで、「普通」になろうとした。「普通」がよくわからない彼女に、はっきりとした「普通」のマニュアルを提示してくれたのが、コンビニだった。

恵子は、「マニュアル」を微塵も疑いもせずその通りに自分を改造していく。その同調ぶりは見事だ。それは「涙ぐましい努力」…と私に見えただけで、それは私の勝手な投影だったことがすぐにバレる。恵子は「涙ぐましい」様子もなく、忠実に任務を遂行し改造に励む。自分の異物感がバレることに敏感である高い感知能力を使って、同調していく。

「普通」(という本当にあるかどうかわからない)から見たら、恵子はよくわからない「生き物」だ。そのままの恵子にぴったりな「ラベル」はない。ある意味、未知との遭遇

「普通」の人たちは、自分との共通項を探したがる。それら共通項を元にしていろいろ世間話をする。共通項があると話も盛り上がる。「あ〜わかるぅ」「それ、あるある」の数があればあるほど、人は安心して仲良くなれるし分かり合える、と思っている節がある。

未知の存在は時に人を不安にさせる。できれば不安は解消したいので、わかりたい。けど未知をわかるためには、それに似たモデルがないとなかなか大変だ。自分で考えることが要求される。それは手間がかかる面倒な作業とも言えるし、無自覚に隠していた諸々のことがダダ漏れる可能性があるし、できれば避けたい(面白がる人もいるけど)。そのためできるだけ自分の世界に当てはめようとする。

恵子が男尊女卑クソ野郎(ザックリまとました)の白羽さんと同居を始めた事実を知って、勝手に盛り上がっていく周囲の人たちは、嬉々として恵子にラベルを貼った。「普通」の人たちは一安心して、彼らの妄想ストーリーの登場人物として恵子を仕立てる。これでめでたく?恵子は(白羽さんも)彼らの世界の一部になり、排除しなければ!という異物不安がなくなった。「事実と違う」という恵子の説明は聞こえない方がいいのだ。

ところで、クソ野郎の白羽さん。自分が「異物」であるのは世界が間違っているせい、(縄文時代から)今も「機能不全世界」だから自分は苦しんでいる、という持論がある。今の自分が機能不全なのは世界のせい。だから、自らを変える必要はない。
彼はコンビニ店員として恐ろしく「不能」だが、全く氣にしていない。彼はコンビニ店員は見下しており、変わるのは自分ではなく彼ら(社会)の方なのだから。ま、一応、彼が世界に適合しようとしている努力が1mmくらいは見えた。が、このプライドの鬱屈さ、やばい腐敗臭です。恵子に対する的外れの尊大さ、相当臭ってます。ちょっと恐いのは、リアル白羽にミニ白羽、確実に実在してるわ〜。実際に浮かんでしまう顔の数々…

こんなクソ野郎に対して、ある公平さ、受容を示す恵子に、一番の「慈悲深さ」を感じてしまった。子どもの頃はあんなに不可解だったのにね。見事な成長っぷり!

ラストは自己受容…なのでしょうか。最後に「コンビニ店員という動物」である自分を、皆が「納得する。全ての人が喜ぶ生き方」ではなく「本能を裏切」らない生き方を。

「ムラの掟」より「本能」に従い、「細胞全てが、(略)皮膚の中で蠢いているのをはっきり感じ」た恵子に幸あれ!

 

人生は面白い。 

 

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