一香堂(ひとかどう)の身辺雑記

人生面白がろう😆一香堂はり灸師@神楽坂の雑記帳

「グレース&グリット」を読んで

 
読んでいる最中、何度本を置いただろう。
心の奥にある振り子が両極に振り切れる度に、読むのを止めた。そうしないと読み続けることができなかった。

ケン・ウィルバー著『グレース&グリット―愛と魂の軌跡〈上〉』『グレース&グリット―愛と魂の軌跡〈下〉』をようやく読み終えた。

ケン・ウィルバーと妻のトレヤの出会いから結婚、トレヤの癌発病、再発とその闘病、そしてトレヤの死までの5年間を描いている。
彼らの結婚は、トレヤの癌の発病で始まり、彼女の死で幕を閉じた。
彼らの生活は、常に癌と共に生きたという感じだ。

しかし、読後私の中に残っているものは、彼らの、互いに対する深い愛と互いを高めあった魂の関係だ。

出会いからして、運命的。
その後に続く、壮絶な癌治療。身体ならず心・魂までもが傷ついてしまうかのような苦しいなか、二人は、あるときはぴったりくっついて、あるときは離れ、あるときはぶつかりあいながら、生きていく。
そのなかで、二つの偉大な魂は磨かれ、高まり、広がり、最後は本当の意味でスピリチュアルな関係になる。

トレヤの日記や手紙からは、彼女の知性とユーモアと優しさがにじみ出ている。
ケン・ウィルバーも好きだけれど、よりトレヤのことを好きになった。
ケンに出会う前、彼女はフィンドホーンに3年ほど住んでいたそうだ。その点もsympathyを感じた(私は体験週間のみだけどね)。

そして、二人が語るスピリチュアルな教えや、二人が実践しているプラクティス。
過酷な状況のなか(だからこそ)、それらを忘れず生活の一部として取り入れ、最大限に生かしている。
本当に尊敬、すごい、素晴らしい・・・・と、ありきたりの言葉しか言えないが、本当にすごい!

ケンもトレヤも、聖人というわけではない。
本の中の彼らは普通に悩み、迷い、落ち込み、怒り、罵り、喧嘩もしている。
それが、徐々に、ときには急激に、変容していくのだ。

トレヤの変容の過程は、畏敬の念を覚える。
彼女は、癌の苦しみを感じるときに、今苦しんでいる世界中の存在とつながっている、と言った。
再発を繰り返しながら、彼女は、観照者になっていった。
瞑想しているときを思い出し、ひらめいた「情熱的な無執着」という言葉。それを自分の生きる姿勢として捉え、体現していく。
どんどん光に満ちた存在となり、そして本当に光となって、この世を去っていった。

最後の2章、「第21章 グレース&グリット」「第22章 輝く星のために」は、涙がいっぱいこぼれた。
それは、悲しいというより、死を意識的に迎えるトレアの美しさとグレースに、私の中にもあるスピリットが共振して流れた涙だった。

ケン・ウィルバーは理論家として語られることが多いけれど、それ以上に実践家であることがわかった。
彼は最新書『実践インテグラル・ライフ―自己成長の設計図』のなかで、ボディ、マインド、スピリット、シャドーの4領域に働きかける実践を説いている。
『グレース&グリット』を読んで、なぜ彼がシャドーを一つの領域として取り上げたのかわかったような氣がした。

ケン・ウィルバーの本は難しすぎるという方に、ぜひ『グレース&グリット―愛と魂の軌跡』をおすすめする。
彼の過去の著書の抜粋、インタビュー、考え、解釈なども本のあちこちに書かれているから。

病気を患っていたりして、誰かのサポートが生活上必須という場合、「第21章 グレース&グリット」に出てくるトレヤの9月26日付手紙、「部外者があなたを助けたがっているとき、ノーと言うのを恐れないこと ――あるいは、自分の“魂の免疫系”を信じることを学ぼう」は、きっと自分の中にある尊厳を思い出すことに役立つかもしれない。

病気そのものというより、周りの人たちから受けるであろうことについて書かれている。全部わかっているつもりになっている善意の人たちからもらうアドバイスや、心無い批判に、拒絶することを恐れないように。自分自身を信じて、自分自身に耳を傾け、自分自身の最良のアドバイスを手に入れよう!ということ。
もしかしたら自分が弱者と接したときに、「私は全部わかっていますよ」と勘違いした偽善意の人になってしまう、または既になっている可能性もあるわけだ。そんなときこそ、自分は何に基盤として、言っているのか?行動しているのか?っていうことを自覚することが大事なんだろう。表面的に取り繕ってもバレるからね。

患者の介護をされている場合、「第20章 介護者」のなか、ケンが書いた手紙「友人のみなさんへ」は、共感される部分があるだろう。

実際この手紙がある雑誌に掲載されたら、大きな反響があったそうだ。ケンが書いているように、「彼らが『黙殺』されているのは、ひとえに『病人ではない』からに他ならない。誰も彼らが本当に問題を抱えているとは思わないのだ。」

最後に、タイトルの「グレース&グリット」は「恩寵と勇気」である。
トレヤが、日記に書きとめた「必要なのは、恩寵と―――そう、勇気!」
今の私には、漠然としかわからない言葉である。